大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3273号 判決

判  決

東京都大田区山王一丁目二千五百九十番地

原告

安藤弥一

同都港区芝田町四丁目一番地

原告

アンドカード工業株式会社

右代表者代表取締役

小宮山利三

右両名訴訟代理人弁護士

梶谷丈夫

中根宏

板井一瓏

右補佐人弁理士

園田進

同都千代田区神田小川町三丁目二十二番地六

被告

日本事務器株式会社

右代表者代表取締役

田中啓次郎

右訴訟代理人弁護士

竹田弥蔵

小坂志磨夫

松本重敏

右補佐人弁理士

山田正国

右当事者間の昭和三六年(ワ)第三、二七三号実用新案権侵害行為禁止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、被告は、業として、別紙第三目録記載の物件を、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。

二  被告は、その本店、支店、営業所および工場等において所有する前項掲記の物件を廃棄せよ。

三  被告は、原告アンドカード工業株式会社に対し、金百二十万三千四百五十円およびこれに対する昭和三十六年六月二十七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求は、棄却する。

五  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第三項に限り、原告アンドカード工業株式会社において、被告に対し、金四十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  原告ら訴訟代理人は、

(一)  被告は、業として、別紙第二目録および第三目録記載の各物件を、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。

(二)  被告は、その本店、支店、営業所および工場等において所有する右物件を廃棄せよ。

(三)  被告は原告アンドカード工業株式会社に対し、用紙第四目録記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

(四)  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決および主文第三項同旨の判決ならびに金員の支払を命ずる分部につき仮執行の宣言を求めた。

(被告の求めた裁判)

二 被訴訟代理人は、「原告らの請求は、棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

(請求の原因)

原告ら訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり近べた。

一  原告らの実用新案権と実施権

(一)原告安藤弥一(以下「原告安藤」という。)は、次の実用新案権の権利者である。

名  称 カード容器における書類袋

出  願 昭和二十六年四月九日

出願公告 昭和二十八年六月十八日

登  録 昭和二十八年九月二十一日 (登録第四〇六、〇七九号)

(二)  原告アンドカード工業株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和三十六年九月十九日付契約により、原告安藤から、本件実用新案権につき、期間の定なく、範囲は全部、実施料は無料とする専用実施権の設定を受け、昭和三十七年二月十二日、その登録手続を経た。

しかして、原告会社は右専用実施権を取得するまで、次の理由により、本件実用新案権につき実施権(現行実用新案法施行後は通常実施権。以下同じ。)を有していた。すなわち、

(1) 原告会社は、昭和十八年五月十三日設立され、昭和二十一年四月四日以降は事務用機器の製造、販売を主たる営業目的として来た株式会社であり、原告安藤は、その設立以来現在まで、原告会社の代表取締役兼技術および製造担当の取締役であるところ、本件実用新案は、原告安藤が、原告会社の技術および製造担当の取締役ならびに技術開発の首脳者として、その勤務に関してした考案であり、その性質上、原告会社主たる業務である事務用機器の製造に関し、かつ、考案をするに至つた行為が原告会社の事業推進のため発明または考案をする技術首脳者としての原告安藤の任務に属するものであるから、原告会社は、本件実用新案権について法定実施権を有していたものである。

(2) また、原告安藤は、本件実用新案権の登録と同時に、原告会社との契約で、原告会社に対し、本件実用新案権につき、期間の定なく、範囲は全部、実施料は無料とする独占的な実施権を許諾したので、原告会知は、本件実用新案権登録後昭和三十七年二月十一日までの期間、独占的な実施権を有していた。

二  実用新案登録請求の範囲

本件実用新案の願書に添附した明細書(昭和二十七年六月十日提出の訂正説明書により訂正したもの)の登録請求の範囲の記載は、別紙第一目録記載のとおりである。

三  本件実用新案の要部等

(一)  本件実用新案の要部は、次の諸点にある。

(1) カード容器における書類袋であること。

(2) 袋用紙の一半片に文書等の挿入口が設けられていること。

(3) 右の挿入口は、文書等を横方向から挿入しうるように設けられていること。

(4) 袋用紙の他の半片には、適宜の表示カード差込孔が設けられていること。

(5) 右両半片は、重ね合わされ、周辺を適宜接着されていること。

(6) 前記文書等の挿入口は、傾斜した開口に形成されていること。

しかして、右(2)における挿入口は、前明記細書の記載中挿入口を傾斜せる開口に形成されると明示し、表示カード差込孔の孔と特に区別してあることからみて、孔であることは要件でなく、一半片に対する穿設または切込みに限らないものであり、また、(5)における「適宜」とは、接着の場所および方法において適宜という趣旨であるから、周辺全部の接着でなく、一部の接着で足るものである。

さらに、これら要部のうち、(1)から(5)は、原告安藤の有する実用新案権第三九七、七五二号の考案の要部を構成する点であり、本件実用新案の前提要件となつているものである。

(二)  以上の要部を構成する構造により、本件実用新案は、次のとおりの作用効果を有する。

(1) 伝票、文書等の挿入が容易であること。すなわち、

(い) 挿入作動が角と辺により開始されるため、徒来の辺と辺との場合に比して挿入が容易、迅速、かつ、確実となること。

(ろ) 開口の傾斜角度が限定がなく、挿入方向は必要に応じ縦および横の二方向最大限にまで及ぶこと。

(は) 挿入が一挙動で可能であること。

(2) 伝票、文書等の索出が容易であること。すなわち、挿入伝票等の右上隅部分が必ず袋外部に露出するので、そのままの状態において内容物の索出が容易にできること。

(3) 表示カードと伝票、文書等との関連性をより強度に保持しうるうえ、多数カード類の分類が容易であること。

(4) 開口の長さに限定がないから、必要に応じ、これを大にして、台紙一杯の伝票、文書等を挿入すること。

しかしながら、本件実用新案には、挿入文書が上方へ逸出することのないように確保するという作用効果の限定はなく、その実施には、右の効果を有するものと有しないものとがありうる。

四  被告の製品

被告の製品の構造は、別紙第二目録および第三目録記載のとおりである。

五  被告の各製品の特徴および本件実用新案との比較

(一)  第二目録記載の物件(以下「第二物件」という。)

(1) 構造上の特徴および第一目録添附の図面どおりの物件(以下「第一物件」という。)との対比

右物件は、構造上、

(い) カード容器における書類袋であること。

(ろ) 袋用紙の一半片に文書等の挿入口が設けられていること。

(は) 右挿入口が横方向から挿入するように設けられていること。

(に) 他の半片にはカード差込孔が設けられていること。

(ほ) (ろ)の挿入口は、傾斜した開口に形成されていること。

(へ) (ろ)の半片の左半部に直線状の切込が、同じく(に)の半片には右切込に挿穿しうるような舌状の切込が、それぞれ設けられていること。

という特徴を有し、これらは、第一物件の構造と同一であるが、そのほか、右第二物件は、

(と) 両半片を重ね合せた際、その周辺のうち上辺および下辺のみを接着し、左右両辺は開放端としていること

という構造を有し、この点が第一物件の構造と異る。

(2) 作用効果の特徴および本件実用新案の作用効果との対比

第二物件の作用効果は、本件実用新案のそれと同一である。

(3) 比較

第二物件は、本件実用新案の要部を構成する構造をすべて具え、作用効果においても本件実用新案と同一であるから、本件実用新案の技術的範囲に属する。

(二)  第三目録記載の物件(以下「第三物件」という。)

(1) 構造上の特徴および第一物件との対比

右物件は、構造上、

(い) カード容器における書類袋であること

(ろ) 挿入口は、文書等を右上方から斜横に挿入するように設けられていること

(は) 一半片には、カード差込孔が設けられていること

(に) 両半片の周辺は、適宜接着されていること

(ほ) 文書等の挿入口は、傾斜した開口に形成されていること

という特徴を有し、これらは第一物件の構造と同一であるが、そのほか、第三物件は、

(へ) 文書等の挿入口が、両半片の端縁を接着しないことによつて形成されており上辺左半分の水平部分と右上部斜部分が開口となつていること

(と) 周辺のうち右辺の一部下辺および左辺が接着され、その余は解放されていること

という構造を有し、この点は第一物件の構造と異る。

(2) 作用効果の特徴および本件実用新案の作用効果との対比

第三物件の作用効果は、本件実用新案のそれと同一である。とくに、第一物件の右上角部を切除すれば、両者の作用効果の差異はない。

(3) 比較

第三物件は、本件実用新案の要部を構成する前記三の(一)の(1)および(3)から(6)の構造を具備し、同じく(2)の構造に関しては、第三物件における前記五の(二)の(1)の(へ)記載の袋用紙の両片半の一部を接着しないことによつて文書等の挿入口を形成する構造は、袋用紙の一片に開口を設けて文書等の挿入口とする本件実用新案の構造から当業者の容易に想到しうるものであり、これと同一の考案に基く構造であるから、結局、第三物件は、本件実用新案の要部を構成する構造のすべてを備えているものといいうるのである。なお、被告主張の後記袋における両形式は袋としての本質に何らの相違をもたらすものではない。また、第三物件における前記五の(二)の(1)の(と)の構造についてみれば、袋式台紙の上辺を開口して上方向からの文書等の挿入口とすることは袋の性質上公知の構造であるから、第三物件が、傾斜した開口のほかに、右のような公知の上辺の開口を加えても、それは単純な設計変更であるにとどまり、このために、右物件が本件実用新案と異る考案に基くものとすることはできない。

しかして、第三物件は、作用効果においても、本件実用新案と同一であるから、右物件は、本件実用新案の技術的範囲に属する。

六  差止請求

以上のとおりであるから、右第二物件および第三物件の製造、販売等は、原告らの実用新案権および専用実施権の侵害となるところ、被告は、昭和三十四年七月頃から、業として、第二物件および第三物件を製造し、これをビジブルレコーダーに装着して販売していたところ、第二物件については、その後生産を中止したが、今後再び製造、販売等請求の趣旨第一項記載のような侵害行為をする虞があり、また、第三物件については、現在もこれを製造、販売する等上記侵害行為を継続しており、さらに、被告は、その本店、支店、営業所および工場等において右各物件を所持所有しているので、原告安藤は本件実用新案権に基き、原告会社は前記専用実施権に基き、いずれも、被告に対し、請求の趣旨第一、二項記載のとおり、前記侵害行為の差止及び右各物件の廃棄を求める。

七  損害賠償請求

(一)  原告らは、業界に卒先して事務処理の統合管理による事務能率の向上を強調して、本件実用新案権に基くカード整理用袋式台紙を装着したビジブルレコーダーの効用と必要性を力説宣伝して来たところ、昭和三十二年七月、米沢市役所においては、原告らの指導により、本件実用新案権に基くカード整理用台紙を装着したビジブルレコーダーを購入採用することにより、住民関係の各種行政事務を各世帯別に統合管理する抜本的改善を実施した。しかして、自治庁は、米沢市役所における事務能率向上の効果は顕著であるとして、これをモデル市役所に指定し、各市町村に対し、米沢市役所にならつて行政事務処理の方法を改善するように勧奨した。かくて、全国的に、市町村において各カード整理用袋式台紙を接着したビジブルレコーダーを購入して住民関係の行政事務処理を統合管理しようとする情勢となつた。

(二)  被告は、この情勢のもとで、第三物件を製造してビジブルレコーダーに装着し、「バイデツクス」の商標で、昭和三十四年五月頃から、別表記載のとおり、行政事務処理の統合管理を企図している兵庫県西脇市役所および富山県立山町役場等十数か所の市町村役場に、少なくとも総計百十三台販売した。なお、右各ビジブルレコーダーは、十段または十二段の引出を有し、各引出しに五十六枚ずつのカード整理用袋式台紙を装着してあり、右「バイデツクス」に装着する等して被告の販売した第三物件の総数は、七万八千二百十六枚である。

(三)  前記各市町村役場におけるビジブルレコーダーの購入は、これにより、米沢市役所におけると同様に、行政事務の統合管理をしようとするものであるから、第三物件を装着した被告の右ビジブルレコーダーを購入できなかつたとすれば、当然、これと同一の作用効果を有する原告会社の前記カード整理用袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを購入した筈である。したがつて、被告は、前記製造、販売により、原告会社における同数量のカード整理用袋式台紙装着のビジブルレコーダーの販売を妨害し、これによつて得べかりし利益を喪失させたものである。

しかして、原告会社における右ビジブルレコーダー一台の販売価格は金三万五千五百円であり、その販売による純利益は三十パーセントにあたる金一万六百五十円であるから、原告会社は、右百十三台分として合計金百二十万三千四百五十円の損害を蒙つた。

(四)  しかして、原告会社は、前記のとおり、本件実用新案権につき、法定実施権および許諾による独占的実施権を有していたものであるところ、被告は、本件実用新案権の存在、および第三物件がその技術的範囲に属することとともに、右各実施権の存在を知つていたか、または公報その他によりこれを知りうべきであつたにかかわらず、過失によりこれを知なないで、前記「バイデツクス」の製造、販売をしたのであるから、被告は故意または少くとも過失により、右第三物件を装着した「バイデツクス」を生産、販売して原告会社の右各実施権を侵害し、よつて原告会社に前記損害を与えたものであり、また、右損害は、前記事情からみて、被告の当然予見しうべきものであるから、被告は、原告会社に対し、右損害金およびこれに対する不法行為の後である昭和三十六年六月二十七日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。よつて、原告は、前記法定実施権の侵害と許諾による独占的実施権の侵害とを択一的に主張して、被告に対し、主文第三項記載のとおり損害賠償を求める。

八  謝罪広告請求

(一)  被告会社が、前記のように故意または過失により原告らの本件実用新案権および前記各実施権を侵害して、第二物件および第三物件を装着したビジブルレコーダーを販売したため全国市町村役場に滲透していた本件実用新案の実施品装置のビジブルレコーダーを用いることによつてのみ行政事務の統合管理が可能であるという本件実用新案に対する社会的評価が減ぜられ、そのため、行政事務の統合管理の創始者としてまた、右機械のメーカーとしての原告会社の業務上の信用が毀損された。

(二)  被告の従業員は、小松市役所にビジブルレコーダーを売り込むに際し、第二物件を提示してその売込交渉を進めていたが、昭和三十五年十月頃、同市役所において、係員に対し、「アンドカードと取り組むと、不誠実な会社だから後で必ず後悔しますよ。」と申し向けて原告会社を誹謗し、また、被告の従業員は、旭川市役所に同様第二物件を示してビジブルレコーダーの売込方を進めていたが、同市役所においても、昭和三十六年一月頃、係員に対し、「アンドカード工業株式会社は、新聞で御承知のように、雪害を受け、被害甚大で、この会社と結びついたら、あとで追加注文等の場合に困りますよ。」などと申し向けて原告会社を誹謗し、もつて、著しく原告会社の業務上の信用を毀損した。右は、いずれも、被告会社の被用者が事業の執行について原告会社に与えた損害である。

(三)  よつて、右各不法行為により毀損された原告会社の業務上の信用を回復するため、被告に対し、請求の趣旨第三項記載の謝罪広告を求める。

(答弁)

被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

一  請求原因一の(一)の事実ならびに同一の(二)のうち原告会社の設立年月日、営業目的に関する主張事実、および、原告安藤が代表取締役であることは認めるが、同(二)のその余の事実は否認する。

二  同二の事実は認める。

三  同三の一のうち、本件実用新案が同(一)の(1)から(6)の構造をその要件としていること、および、右のうち(1)から(5)が実用新案権第三九七、七五二号の考案の要部を構成する点であり、本件実用新案の前提要件となつているものであることは認めるが、右(2)および(5)に関する原告らの見解については争う。

本件実用新案の構造は、その前提とされている前記実用新案権の内容、出願前公知の事実、出願の経過、および、明細書図面の記載からみて、次の点をその要部としているものとみるべきものである。すなわち、

(1)′ 本件実用新案権の対象となるべきカード容器における書類袋は、挿入口が袋用紙の一半片そのものに穿設するか、または、切り込んで設けられていること。

(2)′ 右の挿入口は傾斜した開口に形成されていること。

(3)′ 本件実用新案の書類袋は、その周辺全部が適宜の方法(綴着、糊着等)によつて接着されていなければならないこと。

したがつて、周辺の一部を接着することなく、二辺によつて挿入口を形成する構造のものは、本件実用新案の技術的範囲のものである。

同三の(二)の事実のうち、本件実用新案に同(二)の(1)、(1)の(い)、(2)、(3)の作用効果のあることは認めるが、その余は争う。右の作用効果は、実用新案第三九七七五二号の構造によるものであり、本件実用新案の特徴をなすものではない。(1)の(は)については、本件実用新案においては、斜上方から文書を挿入したのち、さらに横方向に突き入れるという二挙動の操作を要するものであり、(4)については、本件実用新案は、袋用紙の一片に斜に挿入口を設ける関係上、その巾に制限があり、台紙一杯の文書等の挿入はできない。また、本件実用新案には、これが横方向から文書等を挿入するものであることにより、挿入文書の上方への逸出がなく確保されるという作用効果がある。

なお、実用新案は元来新規な型、構造に与えられるもので、作用効果に与えられるものではないから、作用効果を基準としてその類否を判断することは許されない。とくに、本件は公知であるビジブルレコーダーにおける書類袋の構造に関する考案であるから、本来同一の作用効果を目的とし、ただ、その構造にのみ各種の変更が考察されるにすぎないものであり、この点を無視し、作用効果の同一近似から、その構造も均等であるとすることは許さるべきではない。

四、同四の事実は認める。

五  同五の(一)の(1)の事実のうち、(い)から(ほ)の点において、第二物件が第一物件と同じであること、および、(と)の構造を有し、この点において異ることは認めるが、(へ)の点において同一であることは争う。

同五の(一)の(2)の事実については、第二物件が挿入索出が容易であり、カードと文書等との関連性が強められる等、本件実用新案と同一の作用効果を有することは認めるが、そのような効果は、ビジブルレコーダーの本来の目的効果であり、本件実用新案のみに認められるものではない。また、右のほかに、第二物件は左右両辺が接着されていないから、挿入する文書によつては、一片に設けられた傾斜した挿入口のみでなく、両片の解放端縁によつて形成される開口からも文書の挿入保管が可能であり、この場合には文書は半片と同一大のものまで収容可能であること、および、短い文書等を挿入する場合は、舌片の挿穿によつてストツパーの役目を果させることもできるから、各種文書を、その目的に応じて、挿入しうるという作用効果があるが、一方、第二物件は、左右両端縁が開放されている(ストツパーを使用した場合も完全に閉鎖接着はされない。)ため、文書等は、稀に左右方向に逸出する虞なしとしない欠点があるので、結局、右物件は、作用効果において本件実用新案と異るものである。

同五の(一)の(3)の事実は否認する。

同五の(二)の(1)のうち、第三物件が(い)(は)の点で第一物件と同一の構造を有すること、および、(へ)(と)の構造を有し、この点で第一物件と異つていることは認めるが、その余は争う。(ろ)については、第三物件の挿入口は文書等を上方より縦方向に挿入しうるように設けられており、ただ、上縁の右肩隅角部の切除によつて右縦方向の挿入を容易にするよう構造されているにすぎないから、本件実用新案とは異る。(に)については、第三物件は左辺の一部、右辺、下辺のほかは接着されておらず、このような両半片の結合状態は、本件における周辺の適宜接着に含まれない。(ほ)については、第三物件の挿入口は、両半片の端縁を接着しないことによつて形成されており、当該挿入口には、上辺左半分の水平部分のほか、右上部に斜部分があつても、本件実用新案における「傾斜せる開口に形成された挿入口」には該当しない。原告主張の前記(へ)(と)のほか、第三物件には、本件実用新案と対比して、次のとおりの相違点がある。

(ち) 本件実用新案は袋用紙の周辺全部が接着されているが、第三物件は一部が接着されているのみであること。

(り) 本件実用新案は文書等の挿入口が横方向から挿入しうるように設けられているが、第三物件は縦方向から挿入しうるようになつていること。

(ぬ) 本件実用新案は挿入口が傾斜した開口に形成されているが第三物件は袋用紙の一半片が五角形となつているだけで、傾斜した開口は存しない。

同五の(二)の(2)の主張事実は争う。第三物件は、作用効果の点においても、本件実用新案とは次の点で異る。

(い)′ 本件実用新案は挿入口の巾に制限があるため袋の大きさ一杯の文書が挿入できないのに対し、第三物件は、袋の大きさ一杯の文書が挿入できること。

(ろ)′ 本件実用新案は文書等を挿入するのに二挙動を要するが、第三物件では一挙動で挿入できること。

(は)  本件実用新案は文書が上方逸出することなく確保されるに対し、第三物件は上方が開放されていることによつて書類の逸出がありうること。

同五の(二)の(3)の主張事実は否認する。「当業者が容易に想到しうる構造」という概念は、考案の新規性判断の基準たるべきものであり、考案の同一性判断の基準たるべきものではない。また、二つの半片をもつて袋を形成するには、端縁の一部を接着することなく残して、この二枚の半片をもつて挿入口を形成するかまたは、その周辺を接着したうえ、一半片そのものに挿入口を設けるかの二方法があり、本件実用新案出願前公知となつていた書類袋にも右に照応する二形式があつた。本件実用新案権は、登録請求の範囲の記載自体からみて、その後者に関するものであるから、前者の形式に属する第三物件が、その技術的範囲に属することはない。前者に属する公知例としては、昭和十三年実用新案出願公告第一三〇〇六号および昭和十年実用新案出願公告第六四一四号の各公報ならびにアクメ社のパンフレツトおよびリーフレツトがあり、後者に属する公知例としては、昭和十年実用新案出願公告第一五四四四号がある。さらに、前記五の(二)の(1)の(と)の構造については、これを原告主張のように傾斜した開口に上辺の開口を加えたというものではなく五角形をなす袋用紙の一片と他の一片の左辺、下辺、右辺下部を接着して作つたもので、挿入は上方からされるものであり、このような構造は、割箸袋、写真入れ等にあるとおり、本件実用新案出願前から公知のものである。

第三物件は、右のとおり前記五の(二)の(1)の(へ)(と)の点で本件実用新案と異なるほか、前記(ち)(り)(ぬ)のとおりの構造上の相違点があり、また、その作用効果においても前記(い)′(ろ)′(は)′の相違点がある。要するに、第三物件は、本件実用新案とは、その構造の出発点において異つているから、その権利に牴触する余地はない。

五  同六の事実のうち、第三物件に関する部分は認めるが、その余は争う。第二物件は、昭和三十五年一月頃、旭川市役所の要求により、研究見本として五十六枚製作し、同市役所に呈示したのみで、ほかに製造、販売した事実なく、今後もそのような計画はない。

六  同七の(一)の事実は知らない。ビジブルレコーダーの使用による事務能率の向上については、被告がその開拓者として早くから普及宣伝に努力して今日に至つたものであり、被告が原告らに追随しなければならない理由は全くない。

同七の(三)のうち、被告が第三物件を製造し、これを装着した「バイデツクス」を各市町村役場に販売したこと、ならびに、被告が販売した右「バイデツクス」および第三物件の数量と各ビジブルレコーダーにおける引出しの数、各引出しに装着したカード整理用袋式台紙の数が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

同七の(三)のうち、原告会社のビジブルレコーダーの販売価格、利益率、販売利益は知らない。その余は否認する。仮に、第三物件が本件実用新案権に牴触するとしても、被告の製造販売によつて原告会社に生ずべき損害は、袋式台紙の販売によつて得べかりし利益の喪失のみである。

同七の(四)の事実は否認する。仮に、原告会社が法定の実施権または許諾による独占的実施権を有していたとしても、被告は右各実施権およびその基礎となる事実について、本訴以前全く知らなかつたし、知らなかつたことについて過失はないから、損害賠償の責任はない。また、原告主張の法定実施権は、その本質上、原告主張のような事実によつて侵害されることはない。

七  同八の事実は否認する。

第三 証拠関係≪省略≫

理由

(原告らの実用新案権と実施権について)

一  原告安藤が本件実用新案権の権利者であることは、当事者間に争いがなく、(証拠―省略)によれば、原告安藤は、昭和三十六年九月十九日、原告原告会社との間で、本件実用新案権につき、期間の定のない、範囲は全部、実施料は無償とする専用実施権の設定契約をし、昭和三十七年二月十二日、その登録を経たことが認められ、これに反する証拠はない。

また、原告会社が、昭和十八年五月十三日設立され、昭和二十一年四月以降は事務用機器の製造、販売を主たる営業目的として来た株式会社であり、原告安藤が原告会社設立以来現在までその代表取締役であることは本件当事者間に争いなく、右事実に(証拠―省略)を合わせを考えれば、原告安藤は、昭和七年以来、アンドカード容器商会を経営して来たところ、昭和十八年五月十三日、これを株式会社組織に改め、商号を安藤機器株式会社として原告会社を設立したが、その後、昭和三十二年六月十六日、原告会社は、その製品の販売会社であるアンドカード株式会社を合併するとともに、商号も現商号のとおりに改めたこと、原告安藤は、原告会社設立以来、その代表取締役として経営一般に携わる一方、原告会社の研究機関として設けられたアンドカード経営研究所の所長に就任する等して、昭和二十一度四月以来、原告会社の営業目的とされている事務用機器の製造に関し、種々の発明、考案をすることをその任務として来たこと、および、本件実用新案が原告安藤の右任務の遂行としての行為により考案されるに至つた事実を認定しうべく、右認定を左右するに足る証拠はない。しかして、右事実によれば、原告会社は、現行実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号。以下「新法」という。)施行前の実用新案法(大正十年法律第九十七号。以下「旧法」という。)第二十六条において準用する特許法(大正十年法律九十六号。以下「旧特許法」という。)第十四条第二項の規定により、本件実用新案権につき実施権を取得したものであり、新法施行の日以後は、新法施行法第十三条の規定により、右実施権は通常実施権とみなされるに至つたものというべきである。

さらに、前掲各証拠(ただし、証人(省略)の証言については後記措信しない部分を除く。)によれば、原告安藤は、原告会社設立以来、百数十件にのぼる自己の発明、考案にかかる特許、実用新案のすべてにつき、原告会社に独占的実施権を許諾して来たものであり、本件実用新案についても、その登録と同時に、原告会社との契約により、期間の定なく、範囲は全部、対価を無償とする独占的実施権を許諾したものであることが認められ、証人(省略)の証言中「実施料は会社から支払つている。」との部分は、前記各証拠、とくに甲第七号証中専用実施権の対価が無償と記載されている部分と対比して、にわかに措信しがたく、他に右認定を覆するに足る資料はないところ、右事実によれば、原告会社は、旧法施行時において、旧法第二十六条、旧特許法第四十八条第一項に基く、許諾による独占的実施権を有していたものであり、新法施行後は、新法施行法第十四条により、右実施権は通常実施権とみなされるに至つたものというべきである。

(本件実用新案登録請求の範囲について)

二 本件実用新案の願書に添附した明細書(昭和二十七年六月十日提出の訂正説明書により訂正したもの)の登録請求の範囲の記載が、別紙第一目録記載のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

(本件実用新案の要部等について)

三 当事者間に営いのない前記登録請求の範囲の記載およびいずれもその成立に争いのない甲第一、第二号証の各二に鑑定人(省略)の鑑定の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の(一)から掲記の事実を認めうべく、これを覆するに足る証拠はない。すなわち

(一)  本件実用新案は、カード容器における書類袋に関するものであり、

(1)  袋用紙の一半片に文書等を横方向から挿入しうるように挿入口が設けられている

(2)  右挿入口は傾斜した開口に形成されている

(3)  袋用紙の他の半片には適宜の表示カード差込孔が設けられている

(4)  右両片は重ね合わされ、周辺を適宜接着されている

という構造の結合をその要部としているものであること。

(二)  本件実用新案は、右構造により、

(1)  文書等の挿入に当つて、その左下隅を斜上方より開口内に突き入れた後奥へ入れられるので、挿入がきわめて容易である。

(2)  挿入した文書等の右上隅部分が傾斜せる開口から露出して見えるので、文書等の索出がきわめて容易である

(3)  挿入口に挿入された文書等と差込孔に挿入された表示カードと関連性を持たせることにより、その記入索引が容易である

という作用効果をあげうること。

(三)  前記(一)の(1)における「横方向から挿入しうる」という表現のうちには、「縦方向からは挿入しえない」という意味を含まず、したがつて、本件実用新案は、「挿入文書の上方への逸出がなく確保される。」という作用効果を有すべきものとはいえないこと、また、同の(一)(4)における周辺を「適宜接着」するという表現は、接着手段において綴着または糊着による等適宜であるばかりでなく、袋を形成する程度に周辺の適宜の箇所を接着するをもつて足ることをも意味していること。

(四)  前記(一)の(1)(3)(4)の構造の結合は、原告安藤の有する実用新案権第三九七七五二号の考案の要部となつている点であり、前記(二)の(3)の作用効果は、右構造の結合により生ずるものであり、同(二)の(1)(2)の効果は、前記(一)の(2)の構造によるものであること。

しかして、とくに右(三)の点について詳説するに、前記争いのない登録請求の範囲の記載によれば、本件実用新案は、挿入口に関し「横方向から挿入し得るべき」ことをその要素としていることが認められるが、前記甲第一号証の二(本件実用新案の公報)には、本件実用新案の作用効果としては、その明細書に、前記(二)のの(1)挿入容易の点が掲記されているのみで、他に横方向から挿入することによる作用効果と目すべき事項について何ら記載がなく、また、前記甲第二号証の二(実用新案登録第三九七七五二号の公報)によれば、本件実用新案が利用関係に立つ実用新案登録第三九七七五二号の明細書中には、挿入口に関して、横方向から挿入すべきことすら明確には記載されていないことが認められ、右事実によれば本件実用新案は「横方向から挿入しうる」挿入口を有することをその要件とはしているけれども、右は「横方向から挿入することができない」ことを意味するものではなく、したがつて、本件実用新案は「文書等が上方から逸出することのないように確保する。」作用効果を有するものではないといわざるをえない。もつとも、前記第一号証の一、同第二号証の一、二および成立に争いのない乙第六号証の一から四よれば、本件実用新案登録出願の際添附された明細書(以下「原明細書」という。)の登録請求の範囲中には、「横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口」とあるのみで、右挿入口が傾斜した開口に形成されていることについては何らの記載がなく、一方、右明細書の「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の欄には、「横の挿入口から袋状部に伝票、文書等が挿入されて保存されるので、書類袋が反転されてもその伝票、文書等が袋状部から脱出される虞なく」と記載されていたが、その後、右明細書に記載された考案が前記実用新案第三九七七五二号の考案と類似することを理由とする拒絶理由の通知があつたため、昭和二十七年六月十日、訂正説明書により、右明細書の記載を甲第一号証の二のとおり(登録請求の範囲については前記二のとおり。)補正されたものであることが認められるが、右乙第六号証の一によれば、原明細書の図面は補正の対象とならず甲第一号証の二と同一のものであり、また、原明細書の記載中には「(5)は伝票、文書等を横方向から挿入するため裏半片(2)に縦に長い短形又は図示の斜状に穿設するか又は切り込んだ挿入口で斜状の挿入口の場合には、挿入した伝票、文書等の略半分が見えて取扱いに便利である。」との部分があることが認められることからみれば、前記補正は考案の要旨を変更したものではなく(旧法施行規刷第三条の三)、単に、明細書中の不要な記載を除き、不明確な点を補充したものと解するのが、相当であり、原明細書は、当初から補正された内容と同一の内容を有していたものとみるべきものであるから、本件実用新案の要部の判断は、前記補正された明細書の記載に基くべきであり、前掲出願の経過は本件実用新案の要部に関する前認定の妨げとはなるべきものではない。また、前示「適宜接着」という表現については、前記甲第一号証の二の記載中に「9は両半片1、2の周辺を接着した綴着金具で、糊着してもよい。」とあることから、接着の手段に限定がないということのみを意味するものと解しえないでもないが、同号証の二の記載中には、「6は裏半片2に切り込んだ舌片7を形成する切込線で、8は表半片1に切込んだ切込線で、切込線8に舌片7を嵌挿することによつて両半片1、2の一切を接着することが出来る……」との部分があること、および、同号証の二の記載により明らかなように、前記接着は両半片が袋を形成することを目的とするものであることからみれば、前記「適宜接着」とは、前記接着手段に関する記載にかかわらず、接着手段のみでなく、周辺の適宜の箇所を接着するということをも意味するとみるのが相当である。

なお、原告らの主張の請求原因事実三の(二)の(4)の点については、それが本件実用新案による作用効果であることを認めるに足る資料はない。

(被告の製品について)

四 被告製品の構造が別紙第二目録および第三目録のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

(被告製品と本件実用新案との比較)

五 本件実用新案の要部等に関する前認定(前記三)の事実、当事者間に争いのない前記被告の製品の構造、鑑定人(省略)の鑑定の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、次のことが認められる。

すなわち、

(一)  第二物件について。

(1)  第二物件は、カード容器における書類袋であり、

(い) 袋用紙の一半片に文書等を横方向から挿入しうるように挿入口が設けられている

(ろ) 右挿入口は傾斜した開口に傾成されている。

(は) 袋用紙の他の半片にはカード差込孔が設けられている。

(に) 両半片を中央折目で届曲して重ね合わせ、その両端および上端を綴着金具で接着し、さらに中央より左寄の箇所で一半片を穿設した切溝に他半片に切り込んで作つた舌片を挿通してストツパーを具備する袋を形成している

という構造を有すること。

(2)  第二物件は、右構造によつて、本件実用新案の有する前示三の(二)の作用効果をあげうること。

(3)  第二物件と本件実用新案とを対比すること、両者は、いずれもカード容器における書類袋に関するものであるところ、前者における右(1)の(い)から(は)は、後者の要部をなす前示三の(一)の(1)から(3)の構造と同一で、前者における右(1)の(に)の構造は後者における右三の(一)の(4)の構造に、同三の(三)の意味において含まれるものであり、また、両者の作用効果はまつたく同一であること。

(二)  第三物件について。

(1)  第三物件は、カード容器における書類袋であり、

(い) 袋用紙の一半片(裏カード台紙)の右隅角部を大きく斜に切除し、この斜縁とこれに連なる上縁が文書等の挿入口に形成されている

(ろ) 袋用紙の他の半片(カード台紙)には数個のカード係止孔が設けられている

(は) 両半片を重ね合わせ、上縁と斜縁を残して下辺と両辺を綴着金具で接着して袋を形成している

という構造を有すること。

(2)  第三物件は、右構造によつて、本件実用新案の有する前示三の(二)の作用効果を有するほか、文書等を書類の上方からも挿入できるという作用効果があること。

(3)  第三物件と本件実用新案とを対比すると、両者はいずれもカード容器における書類袋に関するものであるところ、

(い) 前者における前記(1)の(ろ)の構造は、後者における前記三の(一)の(3)の構造と同一であり、

(ろ) 前者における前記(1)の(は)の構造は、後者における前記三の(一)の(4)の構造に、同三の(三)の意味において含まれるものであり、

(は) 前者における前記(1)の(い)の構造は、その斜縁によつて形成されている挿入口に文書等を横方向から挿入できる点、右斜縁によつて形成されている挿入口があることにより後者における前記三の(二)の(1)および(2)の作用効果をあげうる点、前掲甲第一号証の二(本件実用新案の公報)中に後者における文書等の挿入口の設置箇所および構造について格別限定がない点、ならびに、「横方向から挿入しうる」という表現が前示三の(三)のとおりと認められる点からみて、「袋用紙の一半片に傾斜せる開口」を形成しているものであり、後者の要部となつている前記三の(一)の(1)および(2)の構造に含まれるとみるべきであり、

(に) 前者は、後者の有する作用効果のすべてをあげることができる

ことを認定しうべく、乙第九号証《省略》作成の鑑定書)中の右に反する見解は、前記各資料に照らし、にわかに賛成しがたいところであり、他に右認定を覆えすに足る資料はなく、右認定の事実によれば、第二物件および第三物件は、いずれも本件実用新案の技術的範囲に属するものといわざるをえない。

(右に関する被告の主張について)

六 以上の点に関し、被告の主張するところについて検討するに、

(一)  被告は、まず、実用新案権は新規な型、構造に与えられるもので、作用効果に与えられるものではないから、作用効果を基準として、その類否を判断することは許さるべきでない旨主張するが、この主張するところが、全面的に正当であると仮定しても、前項掲記の判断と何らのかかわりも持ちえないものであることは、右判示に照らし明白であろう。けだし、前記判断は、一見して明らかなように、作用効果を基準として類否を決定しようとしてはいないからである。

(二)  次に被告の主張中、第二物件は、左右両辺が接着されていないから、文書等が稀に左右に逸出する虞があり、作用効果において本件実用新案に異る、との点については、周辺の「適宜接着」の意味が前判示のとおりであり、第二物件が上下両辺の綴着および舌片による接着によつて袋を形成している以上、本件実用新案の要部となつている前記三の(一)の(4)の構造を具備しているものというべく、前記作用効果におけるわずかな欠陥を理由として、構造に差異があるとすることのできないことはいうまでもないから、右主張は到底採用できない。

(三)  また、被告は、二つの半片によつて袋を形成するには従来公知の二方法があり、本件実用新案出願前公知になつていた書類袋にも右に照応する二形式があつたから、その一形式に属する第三物件は、他の形式に属する書類袋に関する本件実用新案の技術的範囲に属することはない旨、主張し、乙第一号証から同第五号証等によれば、本件実用新案出願前、すでに、右二つの形式による書類袋が公知であつたことを推認するに難くはないが、右のように二つの形式による書類袋があつたとしても、いずれも書類袋である以上、二つの形式があることから、直ちに、一方の袋を表示して記載された考案は、その形式の袋のみに関するものであり、他の形式の袋に実施することができないとするのは独断であり、その考案が一つの形式の書類袋にのみ関するものであるかどうかは、もつぱら、その考案による構造全体の合理的解釈によつて定められるべきものであるから、被告のこの主張も、また採用に値しないものといわざるをえない。

(四)  その他、当裁判所の前示各判断に反する被告の主張は、いずれも独自の見解に基くもので、到底当裁判所の採用し難いところである。

(差止請求について)

七 被告が、第三物件について、請求の趣旨第一項掲記の行為をし、その本店、支店、営業所および工場等において右各物件を所持所有していることは、本件当事者間に争いのないところ、右物件が本件実用新案の技術的範囲に属することは前判示のとおりであるから、本訴請求のうち、原告安藤において本件実用新案権に基き、原告会社において前認定の専用実施権に基き、いずれも被告に対し、請求の趣旨第一、二項記載のとおり、前記行為の差止を求め、その組成物件である右物件の廃棄を求める部分は、その理由がある。

しかしながら、被告が、第二物件について、現在前記のような行為をしていること、もしくは、将来右行為をする虞のあること、または、右物件を所有していることに関しては、これを確認するに足る証拠はないから、本訴請求のうち、右物件につき、請求の趣旨第一、二項の差止、廃棄を求める部分は、その前提事実を欠き、失当といわなければならない。

(損害賠償請求について)

八 被告が、第三物件を装着したビジブルレコーダーを「バイデツクス」という商標を附して、原告ら主張のとおり、合計百十三台製造、販売したことは、本件当事者間に争いがない。

しかして、(証拠―省略)および、弁論の全趣旨によれば、原告会社は、早くから、事務用機器の製造、販売をその営業目的とし、原告安藤の発明、考案にかかる本件実用新案その他を独占的に実施し、全国的にその宜伝、普及に努めて来たものであり、原告安藤は、前認定のとおり(前記一)、原告会社の代表取締役等として活躍するかたわら、会社、官庁等における経営、事務運営のコンサルタントとして、原告会社の製品を利用する事務改善に尽力して来たものであるが、原告会社および原告安藤は、事務器メーカーおよびその考案者として、業界、その他において指導的立場にあるとみられていたこと、昭和三十一年頃、原告安藤は、その友人である当時の米沢市長、吉池慶太郎から、米沢市役所における行政事務の改善について相談を受け、研究の結果、本件実用新案に基くカード整理用袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを使用することにより、住民関係の各種行政事務を各世帯別に統合管理する方式による改善案を立案したところ、これが採用され、同市においては、昭和三十二年七月頃、原告会社より右袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを購入したうえ、右方式による行政事務の改善を実行したが、同十一月、全国行政事務監査委員会において、米沢市における右方式による行政事務の改善の成果が報告されたため、右方式は広く有名となり、自治庁においても、これを行政管理方式の新しいモデルであるとして推奨した結果、全国から県市町村の議員、職員等が、右方式の見学、研究のために米沢市役所に来訪したばかりでなく、実際に右方式による行政事務の統合管理を実施するところも多数に上り、そのため、原告会社における前記ビジブルレコーダーの販売高は増加し、現在までに百七十をこえる市町村に販売するに至つていること、一方、被告は、事務器メーカーとして、業界において原告会社に劣らない名声地位を有するものであるが、これまた、その製造にかかる袋式でないカード整理用台紙を装着するビジブルレコーダーによる行政事務の管理方式を立案し、この方式について全国市町村等に宣伝普及に努めていたところ、たまたま、昭和三十四年七月、兵庫県西脇市役所に第三物件を装着するビジブルレコーダーを納入することとなつて以来、同市役所の行政事務改善を見学した他の市町村の注文等により、前記のとおり、右物件を装着したビジブルレコーダーを製造、販売するに至つたものであること、第三物件は、その以前に被告の製造、販売して来たカード整理用台紙とは全く異つたものであり、右第三物件を装着したビジブルレコーダーを使用して被告が従来宣伝普及に努めて前記方式を実施することはできないものであり、右ビジブルレコーダーを採用購入した市町村においては、原告会社の方式にならつて行政事務の改善を行つていること、ならびに、被告の販売した右ビジブルレコーダーと原告会社のビジブルレコーダーとは、台紙の装着方式が異り、原告会社の袋式台紙を被告の右ビジブルレコーダーに装着することはできないこと、が認められ、以上の事実と、前記一において認定したとおり原告会社において独占実施権を有することにより、原告会社以外のものにおいては、本件実用新案によるカード整理用袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを製造、販売しえないこと、とをあわせ考えれば、特段の事情の認むべきもののない本件においては、もし、被告において右第三物件を装着したビジブルレコーダーを販売しなかつたならば、原告会社において、これと同数、同規格の前記原告製品を販売しえたであろうことを認定しうべく、(中略)他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に、(証拠―省略)を合せ考えれば、被告の製造、販売した前記ビジブルレコーダーと同規格の原告会社のビジブルレコーダーの価格は一台金三万五千五百円を下らず、その販売による利益は右価格の三十パーセントをこえるものであることを認めうべく、(中略)他に右認定を要するに足る資料はない。

しかして、前記第三物件が本件実用新案の技術的範囲に属するものであること前認定のとおりであり、右物件の製造販売は本件実用新案権の侵害となり、したがつて、原告会社の有する前認定の独占的実施権の侵害となるべきものであるところ、次に、被告が右侵害について故意、過失があつたかどうかの点および侵害による損害につき予見しえたかどうかの点について判断するに、被告が故意に右侵害行為をしたことについては、これを認めるに足る証拠はないが、本件実用新案権が原告ら主張の出願、出願公告を経て登録されるに至つたという前記当事者間に争いのない事実に、第三物件が本件実用新案の技術的範囲に属すること、原告会社および被告の業界、諸官庁における前記のとおり名声地位、原告会社および被告における前記のとおりの名声地位、原告会社および被告における宣伝等が全国的規模において行われて来たこと、ならびに、原告会社が設立以来、原告安藤の発明、考案にかかるすべての権利を独占的に実施して来た事実を総合すれば、被告会社において、原告会社の有する前記許諾による独占的実施権(新法施行後は、契約により独占的内容を有する通常実施権)の存在を知り、また、前記第三物件の製造、販売が原告会社の右実施権を侵害するものであることを知りうべきものであつたとみるのが相当であり、また、右第三物件を装着したビジブルレコーダーの販売により、原告会社の本件実用新案権の実施品である袋式台紙を装着した同規格、同数のビジブルレコーダーの販売が妨げられ、原告会社に、これによつて取得しうべき利益を失わせ、同額の損害をこうむうせることも予見しうべきものであつたといわざるをえない。

したがつて、被告は、その過失により、前記ビジブルレコーダーの販売をして、原告会社の前記独占的実施権を侵害し、その得べかりし利益を喪失させたものであり、右により生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきところ、前認定の事実によれば、原告会社の得べかりし利益の額は、少くとも、一台の価格金三万五千五百円、百十三台分合計金四百一万千五百円の三十パーセントに当る金百二十万三千四百五十円とみることができるから、右金額およびこれに対する不法行為の後である昭和三十六年六月二十七日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告会社の請求は、理由があるものということができる。

(謝罪広告の請求について)

九 被告の従業員が、原告ら主張のように、原告会社の業務を誹謗する言動をした旨の原告らの主張事実については、証人(省略)の各証言中右主張にそう部分は、いずれも伝聞にすぎず、これを証人(省略)の各証言と対比して考えるとき、右証言部分のみをもつて、前記誹謗の事実を認定することはできず、他に右事実を認めるに足る確証はないから、原告会社の謝罪広告の請求のうち、右誹謗の事実を前提とする部分は、その理由がないものといわなければならない。

次に、被告の侵害行為による信用失堕に基く請求についてみるに、前認定の事実によれば、被告は、過失により原告会社の前記実施権を侵害して第三物件を装着したビジブルレコーダーを製造、販売したものであるが、これを本件実用新案の実施品、あるいは原告会社の製品として販売したものではなく、また、右ビジブルレコーダーの販売先は、もつぱら、市町村を対象として行われたものであるところ、これらの事実に、業界等における前認定の原告会社および被告の地位を考え、さらに、被告の販売した右第三物件が原告会社の販売する本件実用新案権の実施品に比し、とくに粗悪であるということについて何ら主張、立証のないことを合わせ考えれば、被告の右販売により、本件実用新案権の独占的実施権を有するものとしての原告会社の信用が、ある程度影響を受けたとしても、あえて原告会社の求めるような一般新聞紙上における全国的な謝罪広告の掲載を命ずるまでもなく、被告に対し、前記のとおり第三物件の製造、譲渡等の差止を求め、侵害行為による損害の賠償を求めることにより、その業務上の信用に対する影響を払拭しうるものとみるのが相当であり、他に右謝罪広告を掲載するのでななければ、その業務上の信用を回復し難い事情にあることを認めるに足る証拠はないから、右請求もまた、理由がないものといわざるをえない。

(むすび)

十 以上説示のとおりであるから、原告らの本訴請求は、前示理由のある限度で、これを認容し、その余は棄却すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文、第九十三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 竹 田 国 雄

裁判官楠賢二は、転補のため、署名押印することができない。

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

第一目録

別紙図面に示すように袋用紙の一半片2には、横方面から挿入し得べき伝票、文書第の挿入口を設けると共に他半片1には、適宜の表示カード差込孔4、4又は4′、4′を設けて両半片2、1を重ね合せその周辺を適宜接着してなるカード容器における書類袋において、上記挿入口を傾斜せる開口5に形成してなる構造

第二目録

別紙図面に示すように、袋用紙の一半片(2)には伝票、文書等の挿入口を傾斜せる開口(5)に形成して設けると共に、他半片(1)には、適宜の表示カード差込孔(4)、(4)及び(4)′、(4)′を設けて、両半片(2)、(1)を重ね合せ、その上下二辺を綴着金具により接着してなる構造のカード容器における書類袋

第三目録

図面の略解

第一図は裏面を示す斜図面、第二図は表面を示す斜面図である。

図面の詳細な説明

図面に示す通りカード台紙(1)の一側に基板(8)を固着し、他側に透明な断面U字状の見出部(7)を連設金具(15)(ホツチキス針)で固着し、カード台紙(1)の隅角部には夫々数個のカード係止孔(4)が穿設してある、(2)はこれらと別個の裏カード台紙で右隅角部を斜に切除した五角形をしていて其の下縁(16)及両側部(10)(11)は前記カード台紙(1)に結合金具(6)(ホツチキス針)で固着され見出部(7)に近い上縁(3)及これに連なる斜縁(5)はカード台紙(1)と結合されず、両カード台紙によつて袋を形成している。(12)(13)は裏カード台紙上に穿設したカード係止孔である。

第四目録

謝罪広告(省略)

別表(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例